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空は暗雲に覆い尽くされ、青い稲光が鳴り止まぬ荒野。
爛れたような木がぽつぽつと生え、動物の死骸に烏が集る。
おどろおどろしきその場所こそ、魔界の最奥、全ての闇が生まれ出ずる場所。
巨大な城……魔王城の庭である。
魔王城最上階、玉座の間に座するは偉大なる大魔王。
いつも以上に厳かな雰囲気を醸し出すその部屋には、城の主人、大魔王と……彼に跪く男女二人組。
「只今参じました、父上」
若い男が、跪いたまま口を開く。
「そう畏るな。表を上げよ、我が子達」
そのたった一言にすら重い圧が掛かっている。
まるで部屋全体の空気が震えているように感じられた。
男と女はゆっくりと顔を上げる。
「何故、私がお前たちを呼び出したかわかるか」
大魔王が問う。さながら価値を見定めるように。
「いえ……申し訳ありません」
若い男は、再び顔を下げ、詫びの言葉を述べた。
しかし大魔王は、それを咎めない。
「よい。そしていちいち頭を垂れるでない、大魔王の息子ともあろう者が」
「はっ……して、用件とは」
男は自身の父、大魔王の顔を見上げつつ、その真意を尋ねた。
大魔王は「うむ……」と頷き、一呼吸置いたあと、思いも寄らぬ発言をしたのだ。
「お前たち……ちょっとミッドガルド征服してきてくんない?」
「……は?」
買い出しでも頼むかのような軽い言葉で何言ってんだろう、このクソ親父。
……というのが、男の正直な心の声であった。
「私が直接行ってもいいんだけどぉー、それじゃつまらんっていうかぁ。ミッドガルドならお前たちでも多分イケるレベルだと思うしぃ、まあ暇潰しと思ってちょっと頼まれてくんね?」
「はあ……わかりました」
ムカつく。
階段から落ちて死ねばいい。
そんなことは決して言わないし、顔にも出さなかった。
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