第8章

51/55
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/545ページ
ゆらりと動き出した早坂が僕の前にしゃがんだ。まっすぐ見つめてくる視線は、さっきまでと色を変えて穏やかに、悲しそうだ。 「伊万里……っ」 圭が後ろから僕を引き寄せる。早坂から距離を取り、尻餅をつくような姿で抱きすくめられた。 「圭」 呼びかけても答えてくれない圭は、たぶん早坂を睨み付けてる。警戒するのは当然だ、でも……。 「早坂」 凛とした強い声が頭の上から投げ付けられた。僕を見ていた早坂が少し顔をあげて圭を見る。 「俺、ずっと考えてた」 「……なにを」 早坂の顔に仮面はなく、でも何を考えているのかいまいちわからない。いつもの陽気さもなく、落ち込んでいる訳でもなく、表情もない。 「俺達って、なんなんだ?」 「なにが?」 唐突な質問に、早坂は考える素振りもなく聞き返した。僕もよくわからない。 「俺と伊万里は友達で、恋人。そうだろ、伊万里?」 改めて確認されると、恋人という響きがなんだか恥ずかしい。でも、純粋素直で真剣な圭が言うからか、僕は「うん」とうなずく事ができた。 「早坂と伊万里は?」 圭の問いに早坂は答えず、目を反らした。
/545ページ

最初のコメントを投稿しよう!