第8章

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圭の胸の音を聞きながら、僕は目を閉じた。頭の上から圭の意思の強い声が降り注ぐ。 「早坂。お前は伊万里が好きなんだろ? だったら、奪ってみろよ。ぜってぇ渡さないけど。伊万里の親友のポジションから、奪いに来いよ」 この世界のどこに、恋人を奪いに来いと言う男がいるんだろう。 ばかだね、圭。 でも、奪いに来いと言いながら、絶対に渡さないと言い切る圭は、すごく、うん……圭だ。 ね、わかるでしょ、早坂。僕は圭が好きだよ。こんな人、他にいない。 「……なに、言ってんの圭。絶対に渡さないなら、おれは……ずっとこのままじゃん」 やっと口を開いた早坂の声は、掠れていた。でもそれすら気にした風もなく、圭は言葉を返していく。 「ツライならやめれば。伊万里を好きなのも、伊万里の親友も。俺のダチも、やめれば」 素直な圭の、下手な挑発。 圭は僕の望みを叶えようとしているのかもしれない。なんて、図々しいよね。でもね、早坂を切り捨てる事が出来なかった僕に言えなかった事を言ってくれた。 「親友としてずっと伊万里に付きまとって、俺の前でいちゃついてやるって言ったじゃんか。嘘だったのか?」
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