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   グリュック、森に行ってはいけないよ、と言われていた。  でも、行かずにはいられなかった。  いつだって空腹で目が回っていたし、のどもカラカラだったから。森にならたくさんの食べ物や水がある。それに、けがによく効く薬草だってある。  なにより、私、グリュックには森にしか話し相手がいないから。  話し相手はともだち、ではない。人でも獣でもなくて、もっと、こう……気のいいお隣さん、といった感じ。  お隣さんは私に、いろんなことを教えてくれる。  人間が食べることのできるキノコとか、おいしい水の湧き出る場所とか、けがや病気によく効く薬草とか、そういったものを、いろいろと。  そのお返し、というわけでもないのだけれど、私もお隣さんに、私の暮らす村についていろいろと教えてあげた。  フィーの家の牛がよく乳を出すから、少しくらいならこっそりもらってしまっても平気だと思う、とか、ナルの家のせがれは遊びほうけて夜遅くまで出歩いているから、少しの間ならさらってしまっても誰も気がつかないはず、とか。  ……その結果、フィーの家の牛から乳が出なくなって騒ぎになったり、ナルの家のせがれがお隣さんの食事を口にしてしまい、二度と人の世に戻れなくなったりしたものだから、軽々しく話してしまわないよう、注意して話題を選ぶようにはなったけれど。
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