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西の空がオレンジ色に染まってくる。
落ちる夕日に照らし出されて、雲がことさら立体感を醸し出していた。
ゆっくり回る観覧車、海賊船を模したバイキング、木製レールのジェットコースター。
私はトイカメラの画像のような風景を、満ち足りた気持ちで眺めていた。
今日は朝から一日中、遊園地で遊んでいた。アトラクションを全部制覇しようと、乗り放題のワンデーパスをこれでもかというほど使いこなし、気が付けばもう閉園時間も近い。
「母さん、俺、トイレ行ってくるわ。」
「あ、俺も」
パパと息子は通りがかりのトイレにスッと入っていく。
私は最後に乗った最新式の絶叫マシーンにまだ胸の動悸が収まり切らず、程よい興奮が体を覆っていた。
手前のベンチに腰掛けて深呼吸する。
ふと傍に、こじんまりとした建物が目に入った。
平べったい建物だけど、売店でもない。
なんだろう。
こんなところにアトラクションがあったかしら?
全部回りきったと思っていたのだけど。
園内地図を確認しようと思ったのに、入れたはずのバッグのポケットに見当たらない。
まあいいわ。興味津々で近づいてみる。
小さな立て看板は、閉園に合わせて片付けられようとしていた。
「これは、なんの建物?」
スタッフのお姉さんに声をかける。
彼女は手にしていた看板を見せて、微笑んだ。
“鏡の迷路”
「もう終わりなんですけど・・・、良かったら入ってみます?」
これを逃すと、やり残した感があるだろうな・・・と思いながらも、私は躊躇した。
「主人と息子がトイレに行っちゃってて・・・、一緒に入りたいんですけれど」
「ああ、このアトラクションはお一人様ずつなんですよ。良かったら、ご主人様と息子さんに、奥様が入られたことをお伝えしますよ?」
ああ、そうなのね、と思いつつ、この人にパパと息子が分かるのかしら・・・と訝し気に彼女を見る。
私の気持ちを察してか、彼女の目が「大丈夫です」と言わんばかりに細められた。
「簡単にご説明しますね。」
中はすべて鏡張りです。
迷路自体は単純なんですけど、もしかすると難しく思うかもしれません。
がんばってどんどんゴールに向かって進んでいってくださいね。
ゴールの鏡には、大きな取っ手がついていますから、それを開けて外に出ます。
制限時間は10分です。
10分以内に出られなければ、自動的に床がゴールまでの道筋を灯すようになっています。
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