真冬の蛍-後編-

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声を発しようとしてもうまく出てこない。 こんなのまるで、水の中にいるみたいだ。 『イヤ、モット……モットイキタイ』 『シニタクナイヨ……タスケテ』 『コワイ、クルシイ……』 『サムイ、サムイヨ』 ずるずると引きずり込まれていく意識。 視界が混ざりあって自分が立っているのか座っているのか、動いているのか止まっているのかさえ分からない。 息が苦しい、誰か、助けて…… 助けて、南雲さん…… 「走れ!!!」 沈みかけた意識に割り込んできた声。 血の気が引いた体が右手首だけ暖かくなる。 それでも相変わらず視界は不鮮明で平衡感覚もぐちゃぐちゃ。 ただ、ひたすら自分の手を引いてくれている相手を信じるしかなかった。
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