電子化脳シンドロームの欠片

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「午後一時からは筋肉のトレーニングを中心とした訓練…………特に今日はまず上腕を中心に鍛える予定…………しかし、パイロットである自分に必要なのは筋肉よりも持久力である。果たして今日の訓練が今の自分に本当に必要なのか…………だが、訓練はあくまで上官の指示によるもので、現段階で自分に選択権はないので従うしかない。となると、今日、ここで摂取すべき必要栄養分は…………」 「…………え?なに?それって、なにかの呪文?」  隣で突然始まったまるで呪文のような言葉の羅列に、菜穂(なほ)は頬をひきつらせた。 「違うから、これ。呪文なんかじゃないから」  そう呆れた様子で言ったのは、今も呪文のようにぶつぶつと言葉をつぶやき続けている透哉(とうや)ではなく、菜穂の隣にいた礼香(れいか)だった。 「ただ単に、お昼のランチをなににしようかな~って考えてるだけだから」 「えぇ!?」  確かに三人は第七棟にあるランチルームの前にいて、確かに今日のメニューが書かれた黒板を見ていて、確かに今はランチタイムで…………だが、スクエア型の眼鏡越しにメニュー表をにらみつけ、あごに手をあててぶつぶつとつぶやき続ける透哉の姿は、とても昼食を考えている光景には見えない。 「…………お昼ご飯って、こんなに真剣に考えるものだっけ…………私、いつもなんとなくで選んでたよ」  あ然としながら言う菜穂に、礼香はひらひらと右手をふった。 「いやいや、菜穂のほうが普通。こいつが異常だから」  菜穂に説明しながら、礼香は、菜穂の向こうにいる透哉を…………幼馴染をジト目で見た。このやっかいで面倒くさい幼馴染のためにこう説明するのは何度目だろう。それはもう物心つく頃からなので、数えきれないほどで。  透哉と礼香は幼馴染で、幼稚園から高校まで同じで、そして、就職先も同じだった。面倒くさいのならば別々の道を歩めばいいのだが、この要塞都市という名の狭い世界では、それも難しいことだった。
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