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日の暮れる街。自分の影が背よりも長く伸びていく。
建物から生える沢山の看板は無機物であるのに、この密集した人とのざわめきでそれもなお、一つの生き物であるかのようだ。
子供が隣を走っていく。それを足を止め、その背を追うように振り返った。
沈む日は空を染め、もはや日はない。
「余暉」
落日の残照という意味だ。
この空と同じ名前だという事が何度勿体ないと思ったか。
それと同じく、この日に照らされた街が何度綺麗だと思った事か。
前から歩いてくる婦人は大量の荷物を抱え、忙しく歩いている。その婦人に通りすがりぶつかると「気をつけて」と小言を言われる。その足で再び急いで帰路に着こうとする婦人を見送るその手には先程までなかった赤い果物が一つ握られている。
そしてその頃には日の光は完全に夜の空に飲まれていた。ネオンの光る看板がジージーと嫌らしい音を立てて世界をヘイアン(闇)へと誘っていった。
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