●プロローグ●

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●プロローグ●

 小さい頃は雨が好きだった。  雨の粒が屋根や地面や人々の傘に当たって、弾ける音が好きだった。それに、キラキラ輝いて見える世界が、色んな事柄をぼんやりとさせてくれたから・・・。雨が降るとホッとした。私は雨に守られているのだと感じていた。  だけど、今は好きじゃない・・・。 「おはよう、茜。うっとおしい雨だね」  高校の最寄り駅で傘を広げると、中学からの友達の笹森美樹が声を掛けてきた。 「本当だね。髪も決まらないしね」  私は美樹の肩まである膨張気味のストレートヘアを軽く触って笑った。  今でも雨の日はホッとするけど、幼い頃にキラキラ見えていた世界は感じられなくなって、どんよりした雲に覆われた憂鬱な空に見える。 「茜のクラスはどう?」  美樹は自分の傘を私の傘に寄せるようにして、私の顔を覗きこんできた。 「気の合う子もいるし、結構楽しいよ。」 「女子じゃなくて、カッコイイ子はいる?」  そういう話か。美樹の言いたいことは察しがついた。その話を避けようと、私は「美樹はもう部活は決めた?」と聞いた。 「部活ね、まだ悩み中。茜はバスケ続けるの?」 「バスケ部はもういいかな。私、背がちっちゃいから、中学の時もレギュラーになれなかったしね」 「レギュラーもだけど、今度は佐伯君がいないからでしょ?」  美樹がニヤニヤして言った。避けたつもりの話題を、自分で振ってしまったようで後悔した。 「あんなに仲良かったのに、どうして別れちゃったのかねぇ、あんた達」  仕方がないよ、嫌われちゃったんだから・・・。  声には出さなかったけど、私が切なそうにしていたのかもしれない。美樹は慌てて励ますように私の背中を叩いた。  「だけどさ、茜はこんなに可愛いんだし、今フリーで良かったんじゃない。高校でいい出会いがあるって」
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