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今日も早朝からお掃除。
びっしりと掃除道具を積んだカートが2台、地下のクリーナースタッフの部屋から最初の目的地の1階をめざし、黙々と院内の廊下を移動していく。
木下さんに続くように佳梛も、その後をカートを押しながら移動していると、長い廊下の前方から香月が歩いてくる。
長い手足を惜しむことなく使い、けれども優雅な仕草に。
同じ廊下を歩いているはずなのに、香月の周りにだけ洗練された異なる空間が広がっているよう。
佳梛を見つけて、冷たい彫刻のようなかんばせににこやかな笑みを浮かべる。
なんでこんな朝早くからいるかなっていう突っ込みも霞むほど。
あんまり綺麗で、格好良くて。
見入ってしまう。
だけど、そんな場合じゃない。
隣にいる今日のパートナーの木下さんの探るような視線がイタイ。
隠れるように佳梛は一人勝手に、すぐ近くの診察室の掃除に入る。
「あ、ちょっと、、、!」
木下さんの呼びかけもスルーして。
いつも木下さんがパートナーの時は彼女が自分の掃除したいところから始め、それ以外のところを佳梛が掃除するっていう暗黙の了解みたいなのがあるのに。
今日ばかりは佳梛が先に始めてしまったから、気に入らないのだろうけど。
そんなこと言ってられない。
だって香月がもうそこまで来ていて。
あからさまなあの様子では、木下さんの前でいったい何を言われるか。
それが怖いから。
自意識過剰かもしれないけど。
用心するにこしたことはないし。
追いかけてくるかと思った木下さんは来ない。
このあとトイレ掃除に回れば機嫌を直してくれるかななんて思いながら、久々の診察室の掃除を始める。
よくよく見渡せばここは外科の診察室。
前にここを掃除したとき、梶原が現れたんだった。
思い出した途端、ぶるると冷たいものが背中を走る。
いくら同じ外科室とはいえ、あれ以来姿を見せない梶原の幻影に、不必要に怯えることはないと頭では分かっているけれど。
身体は条件反射のように怯える。
梶原…。
嫌だ…。
どうして、あの時ここにいたんだろう。
あれから姿を見てないけど、またここに来たりするのかな。
嫌だ。嫌だ。
もうあんな思いはしたくない。
梶原に傷つけられ、でも香月に癒されたこの身体。
もう一度傷つけられたくはないの。
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