長い廊下の果て

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黙々と部屋を磨いていると、突如診察室のドアが静かに開く。 ちゃんと閉めたはずなのに。 「…。」 もしかして、 梶原…!? あの時もふいに診察室に梶原が現れたんだった。 コツンコツンと響く足音。 近づくそれに緊張感が高まる。 わずか数秒の時間が死刑宣告を受ける囚人の気分を味わうかのように。 長い。 「佳梛。」 梶原じゃない。 香月の柔らかな声に緊張の糸が切れ、全身から力が抜ける。 「佳梛っ!」 香月の慌てる声と佳梛の傾いていく身体。 くずおれる寸前でキャッチされる。 「間に合った。」 ほっと息を吐く彼を他人事のように眺めていた。 この間の梶原に意識が囚われたまま。 香月が透明な幕の向こうから何かを言ってる。 「どうした。大丈夫か?」 「…。」 「佳梛?」 無言の佳梛。 香月は抱きとめたまま、ペロリと佳梛の耳を舐めた。 「ひゃあっ。」 思わず耳を押さえて、睨み付ける。 「何するのっ!」 「あんまり呆けた顔したまま、固まってるから、つい。」 ついって、、、。 ニヤリと笑いながら、すっとぼけられても💨 衝撃で確かに透明な幕も梶原も、消えたけれど。 落ち着いてくると、周りが見えてくる。 未だ抱き締められたままの自分に気づいて自然と頬が赤らむ。 「ていうか、もう離して。」 香月の胸を両手で押して離れようとするのに、彼はピクリともしない。 そう言えば、香月は服の下は綺麗に鍛えられた筋肉がついていたんだっけ!? なんてこの身体に抱かれたことまで思い出しては、さらに赤面してしまう。 「可愛い。」 香月はそんな佳梛を頭の上から見つめ、戯言を呟いては、さらに抱き締める腕を強くする。 「ちょっとっ!」 香月が近すぎる。 早朝とはいえ、ここは病院で、いつ、誰が来るかも分からないのに。 「離して欲しい?」 佳梛は必死でかぶりをふる。 そんな佳梛に香月は苦笑する。 「そんな必死で訴えなくても…。 じゃあ、離してほしかったら、さっき避けたのはどうしてか言って。」 やっぱりあからさまだったかな。 「避けてなんか…。」 「いないことないだろう?」 反論しかけた佳梛の言葉に、被せるように香月が追い詰めてくる。 「人の顔みて逃げ出すなんて、傷つくなあ。」 なんて、ちっとも傷ついていない顔で。
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