5.奈美の心配

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 航太(こうた)はなかなか戻らなかった。奈美の祖父、港介(こうすけ)から、ダニエルが見つかったかどうか尋ねる電話があった。 「お祖父ちゃん、あんな大きな先生のこと、そんなに心配するなんて、よっぽど気に入ってるのね?」  奈美は祖父の心配をそらそうと、明るい感じで言った。港介は電話の向こうで、はははと笑った。 「ああ、そうだなあ。あの人は黙って、わしが漁師だった頃の話を聞いてくれる。わしの海の料理も美味しそうに食べてくれる。人をいたわる心を持ってる。いい人だ」  それから港介は急に声を落とした。 「お前が言う通り、体もあれだけデカイんだから、小さな台風が通過するくらいで心配をすることはないんだが…」 「何か気になることがあるの?」 「あの人は、いつもそれは淋しい孤独な目をしていたからな。二年前にばあさんを亡くしたときのわしと同じ、いや、わし以上に傷ついた目をしてるんだよ。よほど苦しいことや辛いことがあったと見える」  奈美はびくんとした。血の気が引いていくのが自分でもわかった。 「ま、ま、まさか、お祖父ちゃん、ダニエル先生が、じ、自殺を考えてるとか思ってる…?」 「そうじゃないことを祈ってるよ」港介は溜め息交じりに答えた。 「お祖父ちゃん、そんなこと考えないで! ダニエル先生は音楽の世界に生きてる人よ。何があったって音楽を自分から捨てるわけない! お父さんと一緒に必ず帰ってくる!」奈美は不安でたまらなくなって、むきになって祖父の言葉を否定した。  港介は、奈美に大きな不安を与えてしまったと知って反省したようだった。
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