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「すまんな、奈美。怖がらせるつもりはなかった。わしも、航太と一緒にダンさんが帰ってくると思ってるよ」
「ダンさん?」
「あの人のあだ名ってやつかな? そう呼んでくれと言われたんでな。奈美、心配はいらん。航太は日頃はぼうっとしてるが、こういうときには頼りになる。ダンさんが立ち往生してるのを、すぐ見つけるだろう。帰ってきたらわしに電話をくれるようメモでも書いて、お前は早く休みなさい」
「うん…」
祖父との電話の後、奈美の不安は増すばかりだった。
外は風がものすごい唸り声を上げ、家のあちこちがガタガタと壊れそうな音をたてている。今まで奈美が経験したことのない強い荒れ模様だった。眠れるわけがなかった。
奈美は外の荒れる音と不吉な思いを追い払うため、わざと鍵盤を強く叩いてピアノを弾き始めた。二人は大丈夫と、呪文のように繰り返し呟きながら。
「二人は大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫…ダン先生に比べたらお父さんは小柄だけど、体はがっしりしてるし力持ちだし、度胸だってあるし、あの大きなダン先生が怪我して倒れて動けなかったとしても、このくらいの風だったら、ダン先生を背負って帰れるわよ。そうよ、そうだわ、お父さんは学生時代は柔道の黒帯の猛者だったんだから、何があったって大丈夫に決まってるわ」
だがそうやって、いくら二人は無事に帰ってくると思い込もうとしても、気持ちを鼓舞しようとしても駄目だった。
「でも、ダン先生が浜ノ村にいなくて、他を探し回って、疲れ果てて、お父さんまで怪我して動けなかったら? 二人とも遭難してたら? 必死に助けを待ってるとしたら? ああ、こんなときにお母さんがいてくれたら!」
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