5人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
悪い夢を見た。最近ずっとこの調子だ。
ある日曜の朝のことだった。早朝の眩しい陽射しが直接当たったせいか、休日なのに早く起きてしまった。
寝室からリビングに向かうのに、二階から一階へと階段を下りる。その向かえには、端に置いてあった真新しい姿見を使ってポーズを取っていた麻悠がいた。
今までは、主にサイドテールでしか結っていなかったのが、髪を下ろしたりポニーテール等と髪型を変えたり、しまいにはご丁寧に女の子らしくくるっと一回転して、着用していたエプロンのスカートの裾を上げる。
口角筋を指で上げるようにして笑顔の練習をする。そして、自分にとって最高の笑顔が作れたと思ったら、よし、と自分に語りかけるように照れ笑いを浮かべる。
そして、降りてきた俺のことに気づき、
「あ、今ご飯作るよ。」
と言って、すぐさま台所の位置に着き、彼女らしくない慣れたかのような手つきで料理を作り出す。
確かに彼女は可愛い。俺のために見た目を気にし、料理を作り、積極的に接してくれる麻悠はこの上なく愛らしく、この手で抱きしめたいほどだ。
もし、これが本当の麻悠だったならばの話なのだが…。しかし、残念ながらこれは麻悠ではない。
なぜならば、この麻悠は、彼女の姿を借りて乗り移っている桑田拓海に過ぎないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!