花嫁不信

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 事実を知らされたあの後、拓海は全ての一部始終を暴露した。  あの事故のとき、表向きでは『拓海』が車に轢かれそうになった『麻悠』をかばって助け、当の本人はそのまま轢かれて事故死したといわれていた。  しかし、手術した後に安静して目を覚ました後、違和感を察知したらしくふと自分の手が自分のものではない細い手になっているのと、手元にあった手鏡で自分の姿を見て彼は自分が『麻悠』になり、それとは引き換えに『麻悠』の魂が犠牲になったのだと確信したそうだ。このとき、拓海は自分は死んだのではなく臓器移植によって、自分の魂が麻悠の身体によって生かされたということを悟ったらしい。  しかし、このような事態を知ると周囲の反応は、百八十度一変してしまう。だから、彼はわざと『麻悠』を演じ抜き記憶喪失のふりをしたのだ。  それもそのはずだ。いくら幼なじみだったからとはいえ、乗り移っている体は女性であり、なおかつ彼女のプライベートのことまでは詳しく知らないのだから(実際俺も彼女のことを知らないところもあるし)、この判断が無難な対応だったことだろう。  幸い、脳に若干の損傷はレントゲンでも確認されたらしいので恐らくそれのおかげでごまかすことが出来てばれなかったのは運が良かったことだ。これでほとんど無傷だったらどうするつもりだったのか。
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