おかえりなさいを聞きたくて

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俺は数ヵ月ぶりに、単身赴任先から妻の待つ家と帰っていた。 妻とは毎日電話や、LINEで連絡を取り合っていたので近況はわかっている。 ただ、久しぶりに妻に会えることが嬉しかった。 俺達夫婦は、結婚して1年少々。 まだ、新婚と呼べる間柄だった。 見慣れた通りを歩くのも、数ヵ月ぶりでなんだか懐かしい。 家まであと少しというところで、前から隣に住んでる老夫婦が歩いてきた。 「こんばんは」 「っ、こんばんは」 俺が挨拶すると、旦那の方が驚いた顔をしながら挨拶をしてくれた。 なんだ? 俺の顔に何か着いてるのか? 首をかしげかながらも、頭を下げると旦那の方もぺこりと頭を下げた。 それにしても、奥さん愛想無いなぁ。 挨拶をしたのに、奥さんの方は俺に見向きもしなかった。前は挨拶したら笑顔で返してくれたのに。 少しモヤっとしたが、体調でも悪かったのだろうと思うことにした。 しばらくして、やっと自分の家が見えてきた。 今日、帰ってくるのは妻には伝えてある。きっと、ご馳走を作って待っていてくれるはずだ。 俺は家の前に着くと、一度深呼吸した。 そして、玄関の扉を開ける。 「ただいま!」 家の中に向かって声をかけると、しばらくしてパタパタとスリッパの音が聞こえてきた。 そして。 「おかえり!」 妻が笑顔で迎えてくれた。 最後に見たときと全く変わって居ない姿に、俺は少しほっとする。 たった数ヵ月とはいえ、やはり新婚の妻と離れて暮らすのは寂しかった。 仕事から帰ったら、妻が笑顔で「おかえり」っと言ってくれるような毎日を期待していたのに。 妻はにこにこと笑顔で俺をリビングに迎え入れてくれた。 テーブルの上には想像していたご馳走が山のように並んでいた。 先に風呂を進められ、体の疲れをとってからテーブルにつく。 俺達は、久しぶりにゆっくりと二人の時間を楽しんだ。 他愛ない会話を楽しんでいると、ふと帰る途中で会った老夫婦を思い出した。 「そう言えばさ、帰ってくる途中で隣の夫婦に会ったよ。挨拶したら、旦那さんだけ返してくれてさ。奥さんに無視されちゃったよ」 「え?」 俺の言葉に、妻が怪訝な顔をして動きを止めた。 なんだ、俺変なこと行ったか? 「それ、いつの話?」 「いつって、さっき帰って来るときだけど」 妻の急変した態度に、俺は言葉を選ぶ。 さっきまでの楽しい雰囲気は、いつのまにか消えていた。
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