約束の一年間

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 待ちに待っていた九月がやってきた――。  夏休みが終わり、この桜野丘高校にも生徒たちの姿が溢れ、賑やかな日常が戻ってきた。この九月は、文化祭と体育大会という二大行事が控えていて、これから学校は一段と活気づく。  古庄と真琴が所属する二年部は、これから受験体制に入る三年部ほどではないが、授業日が始まると毎日はとても慌ただしかった。  けれども、そんな慌ただしさの中に生まれる、かけがえのない“陽だまり”のような時間。  お互い授業の入っていない昼下がりの六時間目、静かな職員室の中で、隣に座る真琴の様子を、古庄はいつものように新聞を読みながらうかがった。  何事にも真面目に取り組み、手を抜くことをしない真琴は、授業の準備にも余念がない。古庄は、愛しい人の澄んだ眼差し、その真剣な横顔を、新聞に隠れてじっと見つめ続けた。  どこかで風に吹かれたのだろうか、真琴の髪が一筋乱れてその顔にかかっている。真琴はそれを気にも留めず、黙々と仕事を続けている。  古庄は腕を伸ばして、真琴のその髪を整えてあげたくなった。古庄は思い切って、その腕を動かしかけた……が、やっぱり思いとどまった。真琴の集中を乱してはいけないし、なによりもここで真琴に触れることは憚られた。  それでも、こうやって真琴が世界史の教材研究をしているとき、“物知り”な古庄に、ときおり質問を向けてくれることがある。
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