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君に逢える夏の日が、またやって来ます──
「暑いねぇ」と、アオネさんが声をうだらせます。
今日も暑い真夏日です。
晴れわたる空から、青が燦々と降り注いでいます。
遠くにモクモクと入道雲が沸きあがり、蝉がせわしく高らかに鳴いているのです。
「ほら、尖閣諸島とか東シナ海がキナ臭いだろ。それでじゃないけど、気晴らしにグアム島にでも行こうと思っているのよ」
アオネさんはオカルト雑誌ではたらいているお姉さんで、ぼくのような妖怪が視える人間の希少種です。
アオネさんが言うのには、貯めたお金を使って南の島に行くそうです。
こんな具合に暇を見つけては、ぼくのはたらく職場にやって来るのです。
ぼくは野狐のシロ──化け狐の妖かしです。
お母さんから巣立ったけれど、まだまだ半人前の妖かしです。
そのぼくがはたらくのが、この“あやかし会社”です。
アヤシイ会社ではなくて、妖怪がはたらく会社なのです。
人間をおどろかせたり、恐がらせたりするのが仕事の会社です。
すごく昔から、妖かしは人間をおどろかせてきました。
恐いという感情を忘れないように、妖怪が人間の側にいるのです。
人間が恐いという感情を忘れると、いつの時代も悲劇を生んできたからです。
「そんなワケで暑い日本とオサラバするけど、シロは夏休みはどーすんのさ?」
「ぼくはこれから行くところがありま……っす」
ぼくはかき氷を食べながら答えますが、頭がキーンとなってちゃんと言えません。
アオネさんもかき氷にコロッケをのせて食べています。美味いのかな?
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