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―――そうなんですね。
そんな話を聞いたなら、偽名の青年の言う通り、厳しい印象ばかりを抱いていたサブノックという国の見方が、シズクの中で少しばかり変わって来てもいました。
年若い乳母が自分の故郷に少なからず良い印象を持ってくれた事は、偽名の青年にとっては嬉しい事で、自然と笑顔を浮かべます。
―――ヒャッハー、個人的にはさ、私みたいな野望を抱いている跳ねっかえりより、シズクみたいな性分の娘さんの方が余程サブノックという国では、きっと女性っていう役割を十二分に熟したうえで、物凄く幸せになれると思うのだけれどもねえ。
すっかり食後のお茶を飲み終えて、女商人が持論を述べたなら、そこでは偽名の青年が笑いました。
女商人は笑いは意外だったようで、珍しく自分に向けて強気にも取れる笑顔を浮かべるやがて偽名の青年を憮然として見つめます。
―――それは無理ですよ、シズク殿がサブノックで適応は出来るとは思いますけれど、この方は商人殿と同じで、乳母と言う生業に強い信念、商人殿に言う"野望"を抱いている、そしてそれを貫き通す強さも持っています、こうやって、セリサンセウムにも帰ってきたのに、きっとその仕事を辞めてまでサブノックまできてはくれませんよ。
―――……ヒャッハー、そうね、そうでなければ、何らかの信念があったんでしょうけれど未成年の御婦人が1人で、平定間際の王都から避難して子守の仕事をしながら自分で日銭稼いで、南国まで渡ってはこないわよねえ……。
そしてシズクと初めて出逢った時の事を思い出し、苦笑します。
―――最初に話を聞いた時、"根性がある娘"ねえって一番に思った筈だったのに、すっかり"優しい子ども好きなお姉さん"が馴染んで忘れていたわ。
―――ええ、俺もシズクさんを国に送るまでの経緯を聞いた時に"根性がある御婦人"と同じ様に思いました、だからそんな御婦人を確りと最後まで、安全に送り届けたかったから、それが出来ない事が重ねて無念です。
その無念そうな異国の誇り高き武人に、年若い乳母の婦人は、ここまでの旅路の護衛に対して心からの感謝の言葉を告げました。
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