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前夜の襲撃を行ったマイダーの騎馬軍団が、砦から少し距離を取った谷間に乗り入れた。
この荒野では草も水も手に入れることは難しい。
おおよそ百五十名の騎馬と共に、主のない空馬が目立つ。
「それで王女を、シトリアの邪教の巫女を、取り逃したと言うのか!」
万騎長タムロンはぴしぴしと乗馬靴を鞭で叩いた。
「ここまで損害を出しておきながら、成果がないと!」
竜に乗っていなければ対等に戦えると思ったのが、間違いだった。
徒歩であっても、不意打ちであっても、あの黄色の髪の大男達はしぶとかった。
軟弱なシトリアの兵と戦い慣れて来た騎馬の民は、激しい抵抗に圧倒され、竜に騎乗する者が出て来た時点で、退却を余儀なくされてしまったのだ。
集まった兵士の中から声が上がる。
「やはり本隊との合流を待つべきだったのだ」
「これほど損害を出して、言い訳が立たんぞ」
「いや、あの裏切者の竜を引き入れるべきだったのだ」
「女を手に入れようと、焦ったな」
タムロンは兵士たちをねめつけた。
マイダーの軍は実力主義。
こいつらは味方ではない、隙あれば同僚を蹴落とし、虎視眈々と上の地位を狙うライバル共だ。
和平の使者と偽って峠を越えるのは、五百名が限度だった。
それ以上の兵力では疑いを持たれてしまう。
峠の制圧も本隊との合流も待たず、半数で先行して動いたのは、シトリアの王女が砦にいるという情報があったからだ。
邪教の巫女を捕らえる手柄を、他に譲るわけにはいかぬ。
(竜と王女を携えて凱旋し、ミロン王に献上するのだ。
俺の実力を、腑抜けた親戚共に見せつけてやる!)
「怖気づいたか。竜の多くが動けないというこの時に!
こんな機会はまたと来ないぞ!気合を入れろ!」
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