第一話

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私、神楽橋香蓮は、街角でイケメンとぶつかった。 何故なら、転校初日で遅刻しそうになり、パンをくわえて走っていたからだ。 ぶつかった衝撃で尻餅をつくイケメンと、か弱そうに倒れこむ私。 「ちょっとー、気をつけなさいよね」 可愛く見える範囲で相手を責める。 イケメンの制服は今日から私が通う学校の制服。 ここで二人は口論になり、その後教室で偶然再開、そして……。 イケメンは前髪を直しながら立ち上がって言った。 「ありがとう!」 「なんでー?」 予定と違う。なんでお礼言ってんの? 「僕の心配をしてくれているんだね」 「いやいやいや、気を付けろって言ってんの」 「うん、ありがとう」 口論にならないぞ。 「……えーと、前を見て歩きなさいよね」 「常に前向きに、か。うん、良い言葉だね」 あれ?なんか変だぞこの人。さっきからすんごい笑顔だし。 「パン落ちちゃったじゃない。責任もって食べなさいよね」 我ながら理不尽だが、喧嘩するには仕方がない。 「ありがとう。僕、ごはん党なんだ。そうだ、代わりに僕のおにぎりをあげるよ。さ、立って」 引き起こそうとイケメンが手を差し伸べる。 ヤバい。なんでずっと笑ってんの?逆に怖い。何なの?宗教? 香蓮は表情の消えた顔で手の平を立てる。 「あ、いいです」 少女漫画とは違った。関わってはいけない人だった。 「じゃ、私急ぐんで」 差し出された手をスルーして立ち上がり、全力で距離をとる。 「おーい、待ってよー!これー!」 呼び止める声を背中に、いつもの早歩きの1.2倍のスピードで走れた。 胸ポケットの学生証が無くなっている事に気付いたのは、学校に着いてからの事だった。
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