第一章

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 目を見開いて硬直する結月に、逸見はクスクスと笑いながら「どうぞ」と先を促す。  殆ど無意識に踏み出しながら結月は首だけで振り返り、自身の話題だというのに興味なく沈黙を保つ仁志に、困惑の表情を向けた。 「あんた、何者?」 「さっき逸見が説明しただろう」  言葉に思い起こしたのは、結月が仁志達と共に自身の家を出てからの出来事である。  左ハンドルではない事に微かな落胆を覚えながら、カバンひとつだけを手に結月は大人しく後部座席に乗り込んだ。  明らかな高級感を直に伝えてくる革張りのシートは些か収まりが悪かったが、こんなのそうそう出来る経験じゃないと、結月は高揚していた。  横に座る仁志の妙な威圧感を受け流しながら、薄茶色の窓の外で流れていく昼間の景色を社長気分で眺める。そのまま沈黙を保っていても良かったのだが、ふと、湧き出た好奇心に結月は口を開いた。 「ウイラホールディングス? って、有名なの?」  名刺は既に返している。『万が一』を考え、客の情報は出来るだけ残さない主義だ。  隣の仁志はチラリと結月を視線で捉えただけで、返答したのは運転席でハンドルを握る逸見だった。
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