1人が本棚に入れています
本棚に追加
今日も一際照り付ける日差しの中、僕は小売店で食材を購入する。砂漠地帯にただ屋根を取っ付けただけの簡素な店が並ぶこの一帯、決して質が良いとは言えないがこの辺りではどこも同じ。
「失礼、この辺りで腕の立つ整備士を知らないか?」
目新しさのない食材を持ち代金を支払おうとしているとき、横から割り込んできた恰幅(カップク)の良い無精髭を生やした初老の男性が、その見た目とは裏腹に若々しく活気のある声で店主に話し掛ける。
腕の立つ整備士?
生憎と自分のことではなさそうだ。
すっかり店主はその男性に向いて、こちらはお座なりにされたが、代金だけ置いてその場を離れる。
ここいらじゃこういった接客の悪さは良くあること、いちいち目くじらを立てていてはキリがない。
去り際にちらと男性と目があった。その目の眼光は人でも殺しているんじゃないかと思えるほどに鋭い。
関わらない方が良いだろう、僕は尚のこと名乗りを挙げるのを止めた。
街に繰り出すと少数ながら小型の自空車が飛んでいる、空飛ぶ車と言えば分かりやすいだろう。
自動車と空を掛け合わせた物で相対性理論等でいう時空とはなんの関連もない。
空を飛ぶといっても何十メートルも飛べるわけではなく精々数十センチに留まる。今や既存の技術で余程貧しくない限りは所持している者も多い。実際この辺りは貧しい方の環境だ。
この町の中心部、放送局では色褪せた巨大なテレビでニュースをやっている。この町が唯一外部の情報を得るための手段だ。
まず外部からこの放送局に情報が入り、そこから各家庭のテレビ等に流される。
詰まる所、もしここでトラブルが起きようものならこの町には外部の情報が入ってこないということになる。
そうなってもそれほど誰も困らないだろうけど…
外への興味など、この辺りの人はあまりない。
テレビからは最近世間を賑わせているトレジャーハンター“エルピス”の一行が隣町に現れたということを取り上げている。画面には円形の上半分が切り取られたような巨大な半円型の戦艦が町の頭上に浮いている映像が流れた。
エルピス、この戦艦の名であり、この戦艦の組員の組織の名でもある。
あまりいい噂は聞かない、色んな人から金品を巻き上げたりだとか、誘拐や殺人、挙げ句町を焼き払ったりだとかいった噂が多くある。
最初のコメントを投稿しよう!