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2016年、夏。
「夏なんてなくなればいいのに」
後部座席で同僚の藤原さんがぼやく。
俺の職業は、塗装業。
こんな炎天下の中のペンキ塗りは、フライパンの上で焼かれるのと同じ。
連日の作業で、俺たちは、丸焦げなのだ。
「まぁまぁ、休み休みやろうぜ」
俺達を乗せたバンを運転する木村さんは、穏やかに笑う。
「ところで、今日の現場は?」
助手席の俺は、木村さんに尋ねる。
「小学校だよ」
「外?」
「そう」
それを聞いた藤原さんは、
「やっぱり、今日も丸焦げじゃねーかよー。なんだって、こんな真夏日に」
と、口を尖らせた。
「ちょうど夏休みだからな。この時期じゃないと作業できないんだよ」
木村さんは、なだめるように説明する。
カーエアコンの吹き出し口から流れてくる冷たい風を、今のうちに頬にあてる。
フロントガラスから見上げた青い空間は、雲ひとつない。
このままざぶんと飛びこめるような海と見間違えそうだ。
北極の海なら、我が物顔でのさばる太陽の熱を奪ってくれるのかもしれない。
もしかして。
俺達を乗せたバンが進むアスファルトの道。
ゆらゆらと湯気が立ち、タイヤがぬかるむほどの柔らかくなっているのではと錯覚する。
この道は、もしかして。
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