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事実、彼ら彼女らが操る、蔓が草が木々が機械を絡め取り、爪が牙が機械を粉々に粉砕した記録が在るのだ。建物だって、数年経過したものは植物に塗れている。高度な知能を持った今、機械より順応性も柔軟性も在る動植物は脅威だった。
しかし、それでも動植物は機械を恐怖し、嫌うのだ。
偏に、年月の差なのだろう。エルゴはそう考えている。
「だいたいさー、あの“アブチュース”共は、何だってああも理性的になれない訳? 発達すべきところが発達していないんじゃないの?」
クラッドはフードを取った後頭部で手を組んで歩いていた。廃墟群から街に繋がる地下道へ出たためだ。でなければ、いつ狙われるか判然としないのに無防備ではいられない。
『アブチュース』とは英単語で“鈍い”“愚鈍”“理解が遅い”などの意味だった。転じて、ゆっくり高い知性を獲得した動植物を嘲るスラングとなっている。
「クラッド」
エルゴが、眉間に皺を刻み名を呼ぶことで窘めると「わかってるよ」と不貞腐れたみたいに返事した。エルゴは不可視機能をオフにしただけで、フードは取らなかった。
オンラインで協議の結果仲間を製造量産し続けたAI。ゆっくりと自らを変異させて行った動植物。迅速な機械とゆるやかな動植物の各々異なった進化速度。
この違いが両者の認識を大きく隔てた。
動植物が現状に至るまで、機械に世話をされていた時代も在るのだ。彼ら彼女らからすれば、立派なコンプレックスにもなろうと言うもの。
機械からしたら大したことかと意に介さないのも、溝を深めているのだろう。頭が痛いな、と正直思った。
感覚器官を開発した機械も、磨耗すれば痛みを覚えた。動植物や、ヒトとは違うのかもしれないが。
「……───」
「……ん? 何か言ったか?」
我知らず足を止めていたエルゴの呟きを、クラッドは拾うが、内容までは聞き取れず訊き返した。エルゴは頭を振ると。
「いいや、何でも無い」
クラッドの問いには答えず、進行を再開した。
「……」
“互いに歩み寄りたいと願うのは、夢物語なのだろうか”
洩らした胸の内は、そっとドライブの、私的領域の空きに仕舞いこんだ。
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