触れてはならない、禁断の果実-2

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だけど、ほんとは知ってる、と言って近づけなくなるのが嫌だった。 即物的な、目の前の欲求が捨てられない。 だから嘘にはならないように、ずるい言い方をした。 「慎さんだから、キスしたいだけです」 「んっ……」 重ねただけで、慎さんの身体が一瞬怯えたみたいに震えたけれど、やっぱり抵抗はしなかった。 宥めるように指でうなじを撫でながら、重ねるだけのつもりだったキスをつい深いものに変えてしまう。 ―――いいか番犬。 触れるな、傷つけるな、怖がらせるな、だ。 頭の中の、遠い所で佑さんの声が聞こえた。 月みたいに、高いトコにいる綺麗なひと。 触れてはいけない、禁断の果実。 触れたら手に入るかもしれない、その誘惑に勝てるなら 人間は今もまだ、楽園に居たに違いない。
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