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『焦らなくてもいいと思うけど、どうしてもっていうなら』
翔子さんが話の中で、言っていたことが頭を過る。
『陽ちゃんのすることの、ほんの少しだけ、神崎さんから進むようにしたら?』
『ほんの少し! すこーしだけね』
……少しだけ。
先を、行く。
気が付くと、僕は陽介さんのジャケットの合わせを握りしめていて。
背伸びをして。
「え」と目を見開く陽介さんと視線を合わせながら、唇にほんの一瞬だけキスをしていた。
乾いた唇が触れ合うだけの、何の潤いもないキスだけ。
すぐに離れた僕に陽介さんの反応が乏しくて、不安になって表情を窺うと、驚いた顔のまま固まっていた。
「べ、別に……キスくらい。貴方は少し、僕に気を遣い過ぎだと思って」
「ま、慎さん……」
「それくらい、いちいち確認とらなくても」
いいです。
と、言い切る前に、再び唇は合わせられた。
今度は、陽介さんによって。
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