カルテ6

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「だから、それはちゃんとお前が持っとけ。 使う、使わないは別として 白石の餞別だと思ってやれ。 なんせお前の大ファンだったからな」 そんな事も知らないし。 何度も言うけど "ヤらせろ"だの"脱げ"だの"舐めろ"だの 低俗語集ならなんページにも及ぶくらい綴れるけど。 ……最後の最期で悪かった、なんて言われたけど あれは、末期の人間が弱味を見せただけだ。 と、思いたい。 白石は私にとって、あくまでもヒールで臨終(オワ)って欲しかった。 「……かくいうオレも白石と同じことを思うなんて皮肉だな……」 頭の天辺を軽く揉み、手を離すと車をスタートさせたボス。 その口許はうっすらと緩んでいた。 ボスの言った意味は分からない。 白石と同じことを…… "脱げ"とか"舐めろ"とか? いやいや、散々脱いだし舐めたじゃん。 何を今さら。 マンションの前で私を下ろし、じゃあな、と 残してあっさりと行ってしまったボスに 何となく拍子抜けした。 「なんだ、気にする事ないじゃん」 バッカみたい。 ってか、はずかしー。 クルンと向きを変えてエントランスに入る。 ……一緒に住む? いやいや、ここで? 突然、陣内の戯言を思い出した。 バカな事を仰るでないよ、バカ者。 ここはダメでしょう、ってかここじゃなきゃいいのか?って話だけど…… そんな事ではないんだ。 陣内の事もよく知らないのもあるけど 陣内だって私の事知らないでしょ。 見境なく突っ込むようなバカ者だけど 医者としてのスキルの高さは半端ない。 きっと海外製なんじゃないかな、なんて思ったりして、すっかり深まった夜の空を見上げた。
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