カルテ6ー3

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「縫合完了、腎動脈再開」 三原と視線を合わせて、バイタルに異常がないかを確認する。 「出血ないね」 「ドレーンも大丈夫です」 「オッケー、有馬先生、じゃ閉じようか」 「はい」 本当なら私は医療行為を行う上での禁止事項、"飲酒"の罪に問われてもおかしくない。 だけどたったあれくらいのアルコールじゃ手元も頭も狂わない。 狂わないけど、本当はダメなんだ。 当たり前じゃん。 「あー、今日の私は罪深い」 「なに、いきなり謙虚な」 主任がワラワラと笑う。 「カット」 「はい」 「謙虚か……」 謙虚な人間になれるもんならとっくになってるよ。 「でも、有馬先生さ、ほんとすご腕。 肺も、腎臓も勿論だけど。 タマを取り出すまでの速いこと、的確なこと。 ちょっと嫉妬だわね」 ふふ、と髭のチョビチョビ生えてきた鼻から下を綻ばせる。 「なんか主任が"タマ"ってゆーと変」 「うーるさいわ」 「あー、けっこうな時間ですね、髭、剃ってくださいよ?」 「きー、うるさいっっ、気にしてるのに!」 クスクスと笑いが漏れ始めた。 たった今終わりを迎えるオペはゆうに5時間ちょっと。 これでも速いほうだ。 オペ自体は成功と言えるだろうけど ブレイドさんの状態としては、"ああ、よかったね"と喜べるものではない。 人工呼吸器はまだハマったままだし、輸血パックの他にもいくつかのパックが手首と鎖骨下に繋がっていて、それだけで重症だ。 しかも、尿パックに溜まった液体は黒い紅。 血液そのものの色だった。 多量の輸血もそう。 予測できない合併症の可能性だってある。 「あ、そうだ」 誰にも連絡をしていなかった事に気付いて 車の中に置きっぱなしのスマホを取りに戻った。 シャワーくらい浴びたい。 バサバサの睫毛が邪魔で邪魔で仕方なかった。
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