カルテ8ー2

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なんでこんな日に限って、上手く都合が付くんだろうか。 私の持ち場は外来に回された。 マジか。 どうしてみんな、私を心外へ送ろうとするんだ。 そんなに協力的で、本人の意思は通らないのか。 きっと 私が断る、という選択をしてるなんて 思ってないからだ。 「え……有馬先生、断ったの?」 主任に至ってはビックリし過ぎて まだ昼だというのにアゴヒゲが2ミリは伸びただろう。 顎に手を当てたそこがジョリリ、と鳴った。 「そんなに驚かないでくださいよ」 「そう、ま、まぁ……うん、検査がもう始まっちゃうからさ……」 腕時計を見ながら、約1時間後に迫った“それ”のことを気にかけた。 「有馬先生!」 「はい!すぐ行きます」 ちょっとの間をぬって、主任に愚痴りにきた私を呼んだのは外来担当ナース。 戻ってみると患者ではなく尋ね人だった。 「有馬先生、お忙しいところすみません……」 「加倉井、さん…… ダメじゃない、もうすぐ検査あるんだから!」 驚いたのは勿論だけど 心臓のことだから、というのが頭にあって ついつい大きな声を出してしまう。 「少しだけ、お話いいですか?」 さっきは清楚なワンピーススタイルだったのに すっかりラフな部屋着に変わっていて だけど、今時の女子高生を思わせる、うさぎの耳のついたキラキラスマホケースを握りしめる彼女。 はぁ。と頭の中で溜め息をついて 「どうしたの?」 珍しくガラガラの待合室の椅子へ促した。 「あの……ご迷惑なのは分かってるんです」 ちょっと興奮気味に言ったことで ああ、陣内に関係ある話?と思った。 検査の前に、気持ちを高ぶらせるのはよくない。 「ね、加倉井さん、ゆっくり話そうか」 「あ、はぃ、すみません……」 マスクの下で声が窄まっていく。 ちょっとだけ無言の時間があって 「わたし、陣内先生が好きなんです」 突然の告白だった。
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