カルテ9ー2

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カルテとたくさんの本に囲まれた医局の机。 もう、最近は心臓のことばっかりだ。 今までに移植だって バチスタだって 弁置換だって バイパスだって 死ぬほどやってきた。 「有馬さん」 久しぶりだと思うのは気の所為だと分かっている。 「帰りましょうか」 「え?」 陣内が時計を指差した。 「オレら、帰っていい時間」 「あー、……そっか…… 陣内帰っていいよ、お疲れ」 ヒラヒラと手を振り体を伸ばす。 その手首をパシ、と掴まれた。 「休める時に休まないでいつ休むんですか」 確かに。 見上げた陣内のクソ真面目に煌めいた顔を マジマジと見ながら あー、コイツもやっぱ 綺麗な顔立ちしてんなぁ、と思った。 「ねぇ、陣内…… 心臓ってさ……」 何を聞くつもりだったのか ポケットのスマホに遮られて 慌てて画面をスライドさせる。 心外からのコール。 あれから、丸1日が経とうとした頃だった。 私が呼ばれるということは、急変しか有り得ない。 あれ以上の病変があって いったいあの子はどうなるっていうんだ。 有難いことは、救命と心外へは そんなに移動時間がかからない。 ただ、4階まで駆け上がる、というだけだ。 「有馬先生!EF20台に低下しました」 20……って。 「有馬さん!」 呼ばれて、ハッとした。 陣内が一緒にいたことさえ気付いていなかった自分に喝を入れ直す。
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