カルテ10

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いざ、心摘となった時。 「有馬、交代」 「は?」 「変わって」 「え」 「オレはここまで」 「だから、は??」 先輩が1歩退いて、私に交代を告げる。 「元々オレはここまでしか頼まれてないんだ」 「いや、訳分かんないですけど」 「移植、プロがいるんなら、そっちに任せるのが順当だろ。 いや、知らなかったからさ……彼のこと」 「か、れ?」 「そ。さ、早く変わって ドナー心、見るわ。こっちは任せろ」 かれ、と言われて思い当たるプロなんて 1人しかいない。 だけど…… 今、まだ他のモノを…… 「ほら、ああ心配すんな。 加倉井さんとこも了承済み」 バッグを開けて取り出した氷漬けのドナー心。 その氷冷生食水の中で大動脈と肺動脈の間を調べ始めた。 あぁ、と気付いて。 早くしないと……使い物にならなくなる。 加倉井さんの心臓に触れた。 不意に、身体の中にあるのに、動いていないそれに物凄くショックを受けた。 初めての感覚だ。 動きを止めた心臓なんて 何度も何度も触ってきたのに。 ただ、腹を貸しただけのこの子が こんな事になってしまったのは、自分の所為だとどこかで思っているからなんだ。 知らなければ良かったのかもしれない。 陣内を好きな女子高生で済ませれば良かったのかもしれない。
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