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その時についでに説明されたことだが、ディーンはハスクさんから雇われているらしい。
『いくら貴族の頼みでも、こんな面倒なことを無償で引き受けるほどお人好しじゃないよ』と苦笑しながら言われたのはまだ記憶に新しい。一体ハスクさんはどれだけのお人好しなんだろうか。
『……あ、そろそろ昼食だね。もう行っておこうか』
そう声をかけられ、辞書と絵本を閉じて机の上に重ねて置く。
二人連れ立って部屋を出ると、もう見慣れたメイド服が目に入った。
「ーーー」
立ち止まったことで金の三つ編みが揺れる。
『丁度良かった。ご飯できたから下まで来てね』
にこり、と微笑むと踵を返して元来た廊下を戻っていった。
二人のメイドさんのうち、今の金髪の方はリジー・ネールスさん。淡白な印象が強かった、姉であるもう一人のメイドのリクスさんよりは活発な性格らしく、表情もコロコロと変わる。ちなみに顔は瓜二つだが、双子というわけではないそうだ。
屋敷の大きさゆえに、来てすぐの頃は家の中で迷うこともあったが、今はすっかり慣れてしまった。階段を下り、玄関から入って突き当たりにあたる食堂へ足を運ぶ。
扉を開けると、リクスさんがテーブルの上に料理を並べているところだった。
「早いですね。ーーーーーーーーー」
前半は聞き取れたが、後半は無理だった。英語を学んでいる時も同様だったが、文が長くなると途端にわからなくなる。
『席についてお待ちください、だそうだよ』
難しい顔をしていた俺を見かねてだろう、ディーンが通訳してくれた。言葉に棘があることもあるが、この男も基本的には親切だ。
食卓での俺の指定位置は、偶然か必然か、ドアに最も近い下座である。右隣がディーンで、そのさらに右がハスクさん。
対面は、上座から順にリクスさん、ハイネちゃん、リジーさんだ。正直、上下を意識している様子はない。メイドであるリクスさんたちと、貴族であるハスクさんたちが一緒に食事をしているあたりからも、そのことがうかがえる。
席について美味しそうな香りに鼻をくすぐられていると、ハイネちゃんとリジーさんが食堂に入ってきた。
「あ、……お待たせしました」
ゆっくりと話すハイネちゃんの言葉は聞き取りやすい。もう少し話す機会が増えると嬉しいんだが、どことなくまだ避けられている。
一対一で話したことはほぼゼロだ。
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