価値ある地への近道は

4/23
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
その時についでに説明されたことだが、ディーンはハスクさんから雇われているらしい。 『いくら貴族の頼みでも、こんな面倒なことを無償で引き受けるほどお人好しじゃないよ』と苦笑しながら言われたのはまだ記憶に新しい。一体ハスクさんはどれだけのお人好しなんだろうか。 『……あ、そろそろ昼食だね。もう行っておこうか』 そう声をかけられ、辞書と絵本を閉じて机の上に重ねて置く。 二人連れ立って部屋を出ると、もう見慣れたメイド服が目に入った。 「ーーー」 立ち止まったことで金の三つ編みが揺れる。 『丁度良かった。ご飯できたから下まで来てね』 にこり、と微笑むと踵を返して元来た廊下を戻っていった。 二人のメイドさんのうち、今の金髪の方はリジー・ネールスさん。淡白な印象が強かった、姉であるもう一人のメイドのリクスさんよりは活発な性格らしく、表情もコロコロと変わる。ちなみに顔は瓜二つだが、双子というわけではないそうだ。 屋敷の大きさゆえに、来てすぐの頃は家の中で迷うこともあったが、今はすっかり慣れてしまった。階段を下り、玄関から入って突き当たりにあたる食堂へ足を運ぶ。 扉を開けると、リクスさんがテーブルの上に料理を並べているところだった。 「早いですね。ーーーーーーーーー」 前半は聞き取れたが、後半は無理だった。英語を学んでいる時も同様だったが、文が長くなると途端にわからなくなる。 『席についてお待ちください、だそうだよ』 難しい顔をしていた俺を見かねてだろう、ディーンが通訳してくれた。言葉に棘があることもあるが、この男も基本的には親切だ。 食卓での俺の指定位置は、偶然か必然か、ドアに最も近い下座である。右隣がディーンで、そのさらに右がハスクさん。 対面は、上座から順にリクスさん、ハイネちゃん、リジーさんだ。正直、上下を意識している様子はない。メイドであるリクスさんたちと、貴族であるハスクさんたちが一緒に食事をしているあたりからも、そのことがうかがえる。 席について美味しそうな香りに鼻をくすぐられていると、ハイネちゃんとリジーさんが食堂に入ってきた。 「あ、……お待たせしました」 ゆっくりと話すハイネちゃんの言葉は聞き取りやすい。もう少し話す機会が増えると嬉しいんだが、どことなくまだ避けられている。 一対一で話したことはほぼゼロだ。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!