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はい、これとこれとこれねっと言われて積み上げられた書類の山。
ばたんっとドアが閉められてから、私はその書類をなぎ倒したい衝動に駆られた。
「こんな仕事嫌だぁあ!もうやめてやる!」
「はいはい、それ今週に入って36回目ね」
向かいの出窓にちょこんと腰かけていた三毛猫が、私に言った。
「私だって好きで言ってるわけじゃないわよ!魔法使いの弟子が、こんなに書類整理ばっかりだと思わなかったのよ!」
私の言葉に三毛猫は聞いていないのか、あくびをしている。
目の前の書類には、魔法陣やら学会発表の内容がびっしり。
「……ねぇ、本当にこれ頑張ってたら将来魔法使いになれるの?」
数ヵ月前、スカウトされてこの仕事に着いた私としては、未だに先が見えない。
私の言葉に、それまで適当に聞いていた三毛猫がにやりと笑った。
「何事も大事なのは基礎。あんたをスカウトしたのは、あの世紀の大魔法使いよ?その大魔法使いの使い魔の私が断言してあげる。あんたは、将来立派な魔法使いになれるわ。有望よ」
「…………」
ドヤ顔の三毛猫に、私は返す言葉がなかった。
私にはもう何もない。家も家族もない私は、一人で生きてくなんてできそうにない。
だから。
私をスカウトした大魔法使いと、使い魔の彼女の言葉を信じるしかないのだ。
「ーー頑張る」
「そう、それでいいのよ」
今週36回目の励ましに、私は机の上の書類の山に挑むことを決意したのだった。
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