プロローグ

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 熊野御堂にとっては。  九九にとってはだ。  そのガラスは普段は透明になっていて、お互いの姿がよく見える。けれど、スイッチを切り替えると瞬時に不透明に変わる瞬間調光ガラスが使われていた。  そうやって個人の時間は守れるようになっている。 「しかし、いつ見ても悪趣味だな」  熊野御堂は指先で頬を掻いた。  この家は資産家の父親から引き継いだ物だ。どんな目的でこんなガラスを採用したのか、熊野御堂には見当もつかない。  熊野御堂は十人兄弟の次男だ。そして、十人はそれぞれ母親が異なっている。父親は様々な女性との間に子供を授かり、認知していた。  不思議と兄弟同士の仲は良い。それがなによりも救いだ。
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