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智樹が言うことは正論だった。どうにも反論できないのが悔しくてボールを軽くぶつけた。
「痛。なにするんだよ」
「交代」
「手荒な合図だな」
呆れたような智樹は、バットを夏奈に渡す。
ずっしりとくる九百グラムあるバットを短く持って構えると、智樹がボールをふわりとトスする。
ネットに向けて打ち返すが、智樹のように澄んだ音は出なかった。
「実際、経験で言えばシロのほうが上だ。それなりに地力があるんだよ、あいつ」
ちょうどいいポイントに上げられたボールに、むしゃくしゃした想いをぶつけた。
また芯を外した。嫌みのように、手の平に小さな衝撃が残った。
「だから、なに」
「恨みっこなしだってこと。おまえがそうやってムスッとするだけで、チームの雰囲気が暗くなるんだぞ。良くも悪くもムードメーカーなんだよ」
誰もこんなことは言ってくれない。この件に関して、夏奈のことは腫れもののように扱う者がほとんどだが、智樹だけは遠慮がなかった。
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