夏といえばアレ

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 さて。  周囲から見ればこの状況、父親と娘が仲良く並んでベンチに座り、お菓子を食べている微笑ましい光景に映るだろう。  が。  そう簡単に親子という関係を認めることができないのが私とコノ人の距離感だ。  「……ひとつ、きいてもいいでしゅか?」  「なんだ?」  持っているミニ大福の袋に視線を落としたまま尋ねた。  「どうして、おかあさんとわたしをすてたの?」  「捨てる? 誰がだ?」  あくまでもしらを切るつもりですか? そうですか。  思わず横を見て段々と細まっていく私の目に、コノ人は何やら勘付いたらしい。    僅かに僅かーに片眉が上げられた。  「待て。我とそなたには大きな見解の相違があるようだ」  「けんかいのそーい?」  「うむ。そもそも、我はそなたに嫌われるようなことはしていない」  「こそこそすとーかーしてました」  「あれはすとぉかぁではない。心配で後ろからついて行っていただけだ」  開き直ったぞ、この人。  「捨てるなど、どうしてそういう思考が出てくるのか。どうもそなたは、ゆきの母親の血が良くない方向で作用しておる」  「おばあちゃんの?」  「うむ。あれも大概だが、そなたもまた思い込みの激しい娘よ」  「お、おばあちゃんと……いっしょ」  私のお母さんのお母さん、つまり私のおばあちゃんに当たる人はとても……その……天然で、猪突猛進型で、とにかくすんごい人だ。  そんなおばあちゃんと一緒……大好きなんだけど、なんだかすごく複雑な気分。
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