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生々しい惨状を眼前にしながらのんきに金の話ばかりしていたせいだろうが……ボスはともかく、私まで人でなしの範疇に入れられるのは心外だった。私はまともな人間なのだ。
まもなく署員と救急隊員が到着した。
事後処理を終えて私たちが戸外へ踏み出したときには、すでに夜も更けていた。
今日だけでボスは四人殺したことになる。ほかにニュースがなければ明日の新聞にまた大々的に取り上げられるだろう。『パールシー・タイムズ』紙あたりが大騒ぎしそうだ。
「けっきょく夕飯を食べそびれたな」
反省や改悛の色などまるでなく、ボスがのんびりとつぶやいた。
私は足を止めて彼を睨み据えた。
「上司の健康管理は私の業務ではありませんが……最近のあなたの生活ぶりは目に余ると思います。このごろ、まともな食事を全然とってないでしょう? 忙しいからって基本栄養食ぐらいで済ませてるんじゃありませんか。生活リズムも不規則きわまりないし、そんなんじゃ体を壊しますよ」
私は手を伸ばし、ちょっと乱れているボスの前髪を直してやった。
「私の知っている店へ行きましょう。ちゃんとした、家庭的な料理を出す店があるんです。そこなら強盗に襲われる心配もありませんわ。たまにはまともな物を食べなきゃだめです。若いからって自分の体力を過信しちゃいけませんよ。あなたは責任ある立場なんですから、健康管理だって仕事のうちです」
「わかったよ、ミズ・グレイスバーグ」
ボスは神妙な顔で答えた。
仕事にかけては最強無敵に近いボスだが、母親めいた叱責にはなぜか非常に弱い、というのが私が最近発見した事実だった。普段の残虐非道ぶりとの落差が大きい分、その素直さがおかしかった。
ボスのそんな一面を知っているのは私だけだろうと思うと、少し気分が良かった。【完】
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