6・キミに想いを

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「どんなところがだって?」 幸が覚悟を決めた時、ドンと壁を叩くような 音がして薄い壁が揺れ、怯えたような声が続く。 「そんなこと僕だけが知っていれば良いんだよ。 幸は僕だけのものなんだから」 「かのっ……」 幸は耳を塞ぎかけた手を止め、絢香を見た。 今聞こえたことが、空耳でないことを 確かめるために。 絢香も目を輝かせて幸を見ている。 「黙って聞いていれば、人のプライバシーに ズカズカと厚かましく踏み込んで。そんなに 個人的なことを、単なる会社の先輩のあなたに 話すとでも?それもただの茶飲み話に?」 「まったくだ。黒川さん、あんたバカじゃ ないっすか」 「おまえ達、先輩に向かって……」 「年功序列だから、尊敬できない人間であっても 敬えと?ばからしい。いいですか、僕達は あなたのお仲間達とは違う。口説いた女性を 戦利品のように、酒の肴に自慢するあなた方とは」 「そうだ。俺達は知ってるぞ。あんたが取引先で ひっかけた女の子のことを、自慢していたのを。 そのことで、危うく得意先を逃しかけたのをね。 上手くもみ消したみたいですけど」 「なんでそれを……」 大智と井田の反撃に、どこか見下した口調だった 黒川の声がうわずっている。 二人は追撃の手を緩めず、追い打ちをかけていく。 「なんで?そんなのどうでも良いことだ。 とにかく、僕が自分の彼女とどこで何をしようと あなたに関係ない。全く、休憩時間が台無しだ。 行こう、彬生」 「ああ。黒川さん、リベンジは考えない方が 良いな。俺達は優秀なんでね。握ってる情報は、 これだけじゃ無いんですよ」 二組の足音が響き、バタンとドアの閉まる 音がした。
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