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「ここでお別れです。お気をつけて」
夜明け前の薄闇に覆われた森の境界で、ゼノはレナに別れを告げた。旅の目的を果たす為に、これ以上の同行はできないのだと言って。
既に話はついていたのか、ヤンとラウルは何も言わなかった。
「渡しそびれていましたが……」
そう言ってゼノがレナに手渡したのは、小さく畳まれた紙切れだった。今後のためにラウルに渡して欲しいと言って、彼は闇色のペンダントをレナに託した。
掛ける言葉もみつけられず、彼の瞳をただみつめるレナに、それ以上何も言わず、彼は一人で街道を歩き出した。振り返ることのない彼の背中を、見えなくなるまでみつめつづけた。
紙切れには約束していたカッテージチーズのつくりかたが書き綴られていた。ペンダントをラウルに見せると、この先の街に信用できる鑑定屋がいることを教わった。
そのとき初めて、レナはペンダントが金に変わることに気がついた。それならばせめて、手放すそのときまでと、ラウルに頼んでペンダントを預からせてもらった。
闇色の石が湛える静かな光は何処か暖かく、レナの心に深い安息をもたらした。
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