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おかしい。何かがおかしい。
僕はあたりを見回してみる。いつもと変わらない普段どおりの日常。何十回と繰り返されてきた当たり前の光景のはずなのに、何かが欠けている気がする。
僕は毎朝の習慣で朝食を喫茶店で済まそうと外に出たのだが、何か違う雰囲気を感じ取っていた。
喫茶店に向かいながら、僕は周りの人を観察してみる。みんな黙って気難しい顔でそそくさと自分の会社へ歩いていく。それもいつもの光景のはずなのだが、言葉にできないけど、何かが違う。
そうしているうちに足は目的地である喫茶店『トラオム』の前に来ていたみたいで、店の外でも芳醇なコーヒーの香りが鼻をくすぐる。僕はコーヒーの香りに引き寄せられながら、喫茶店に入ると元気よくマスターに挨拶をする。
「おはようございます」
カウンターの中でコップを洗っていたマスターが顔を上げた。
「おはよう瑞貴君。なんだか今朝はおかしな顔をしているね」
口ひげを生やしたマスターが微笑みながら言った。
「顔に出ていますか」
僕はマスターの前に座る。
「何かあったのかい?」
「あったというか何というか、今朝家を出て思ったんですけど、何か町の雰囲気がいつもの違うような気がして・・・」
「いつもと違うってどういうことだい?」
「何ていうべきか・・・何かが足りない、という感じです」
「きっと今の生活に慣れてきたっていうことじゃないかな。こっちで一人暮らしをはじめて2カ月ぐらい経っているでしょ」
「はい。今日でちょうど3か月目です」
僕はこの春、都心部にある大学へ進学した。家から通える距離ではあったが、一人暮らしがしたいために9月から引っ越してきていた。
「それじゃ、一人暮らし3カ月記念ということで、今日はサービスするからね。ちょっと待っていてくれ」
そう言ってマスターは厨房へ行ってしまった。僕は一人店内に何気なく流れているテレビの音に耳を傾ける。店の中はいつもどおりで、町で感じた違和感が嘘のように思えた。
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