5人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「雪見さんこんにちは」
俺は、針谷智樹と一緒に、零に一週間分の学校からのプリントを届ける為に、零が引き取られた一夜雪見(零の父親:一夜樹。零からすれば、父方の祖母)の家を訊ねた。
※零と恭弥は幼馴染なので、雪見の事も零が紹介してくれて、小学生の頃から知っている。なので、雪見も恭弥の事は、小学生の頃から知っている。
「あら! 恭弥君。いらっしゃい。そちらは、お友達?」
※一夜雪見の家は、周りを桜の木に囲まれた小さな木造一戸建て。
雪見さんは、数年前までは、旦那さんと二人で暮らし、毎年桜を見ながら花見をしていたが、旦那をなくしてからは、一人暮らしになって、桜の手入れもできなくなって、花見すらできない状態に。
けれど、毎年、きれいな桜の花が咲いている。
「はい。いま、紹介しますね。智樹!」
恭弥は、自分の後ろに居た智樹を雪見の前に押し出す。
「初めまして、針谷智樹と言います」
雪見に対して、自己紹介をして頭を下げる。
「智樹君、イケメン」
自己紹介が終わったばっかりの智樹に詰め寄る雪見に、智樹は一歩うしろに下がる。
「雪見さん! 智樹が引いてます」
「あら、智樹君ごめんね? おばちゃんったらつい」
「雪見さん。春義さんが嫉妬しますよ?」
「もう、恭弥君たら、相変わらず口が達者なんだから」
旦那の事を会話に出され、雪見の顔がどんどん顔が真っ赤になる。
二人の会話に割り込む事ができない智樹は、自分の目線の先に見えた何も活けられていない白い百合の絵が描かれた花瓶を発見した。
花瓶には何も活けられていないのに、智樹には、なんだかとても大事な物に見えた。
「…あの花瓶はねぇ…」
「雪見さん!?」
恭弥と話していたはずの雪見が、自分の隣に立って自分が見つめていた花瓶の事を話し始めたのでびっくりしていると、
「雪見さん!」
恭弥が、智樹と雪見の間に入り雪見がこれ以上、花瓶について智樹に余計な事を話さないように強引に話しの内容を変えた。
恭弥のこの態度に、智樹に花瓶の説明をしようとしていた雪見もようやく、
「もう、私ったらダメねぇ。話してもどうにもならないのに。ごめんね」
「いえ。それよりあいつはまだ?」
「…ごめんね。折角きてくれたのに」
「雪見さん。これ、あいつ用のプリントです」
零の事を謝る雪見に恭弥は、カバンから担任から貰った零用のプリントを入れたクリアファイルを代わりに差し出す。
「二人とも本当にありがとう。そして、ごめんね。あの子には二人の事ちゃんと伝えるから」
「はい。智樹帰ろう」
雪見に軽く会釈をして、先に歩きはじめる。
「あぁ! 恭弥待ってよ。雪見さん。お邪魔しました」
雪見に軽く会釈をして、慌てて走り去った恭弥を追いかけようとしたら、
「…智樹君…ありがとう。元気でね」
「えっ!」
智樹は、踏み出した足を後ろに戻し、雪見に真相を訊ねようと後ろを振り返った。
けれど、もうそこに彼女の姿はなかった。
☆ ☆ ☆
最初のコメントを投稿しよう!