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「あの……すんません。店の物を壊すつもりは、まったくなかったんですけど――」
ほら、な。またこの言葉だ。もっとマシな台詞のひとつくらい、言えないものだろうか。コイツのすんませんを耳にする度にイラついてしまうから、無駄に高圧的な態度をとってしまうじゃないか。
「安田課長お言葉を返すようですが、宮本が間に入ってくれなかったら、俺が一課の部長に首を絞められ、殺されていたかもしれません」
「は? なんだと?」
「江藤先輩、そんな話は――ふぎょっ!?」
江藤が突然、宮本の口元を左手で覆った。
「何をしているんだ、江藤?」
口元を覆った手を外そうと、ジタバタした宮本を押さえつける江藤を、渋い顔して見上げるしかない。
「コイツが……宮本が責任を感じて謝ってばかりいるのを、黙って聞いているのが辛くなり、思いきって口を塞ぎました」
「ふん、後輩思いのいい先輩を演じて。そんな奴の為に苦労するな」
ケッと思いながら、デスクに頬杖をついてみせた。
「それで江藤、お前は本当に死にかけたのか?」
「はい、そうなんです。そんな俺を助けようと必死になった結果、宮本が店の物を壊してしまった次第です。この件については俺にも責任がありますので、一緒に処分してください」
心底済まなそうな顔をしながら、ぺこりと頭を下げる江藤に倣って、キョドりながら宮本も一緒に頭を下げた。
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