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「アナザーワールドねぇ……あたしはもう何ヶ月もログイン出来てないんだけど、なんで武藤さんは続けられてるわけ?」
「そりゃ、あなたと違ってアタシには学生業なんてのもないし、仕事自体もほぼあなたの専属でやらせてもらえてるからねぇ。割と時間の融通は効くのよ」
「なにそれズルくない?」
自己紹介を終えると、不意に天城がなにやら不服そうな声を上げ、隣に座る聖夜さんにじとっと恨めしそうな視線を送る。
しかし聖夜さんがそんな抗議の言葉と視線をどこ吹く風とばかりに受け流すと、そんなやり取りが面白くなかったのか、天城はむすっと頬杖をついてそっぽを向いた。
「ハルもアナザーワールド、やってたの?」
「ん、まあね。サービス開始からシャインってネームで活動してたんだけど、仕事の都合でここ三ヶ月はさっぱりログイン出来てないなぁ」
「ここ三ヶ月っていうと、丁度俺が始めた頃からだな。でも、最古参の美月も知らないのか?」
流石にログインする前の情報は人づてに聞くなりしなければ知る由がないので、当然俺は彼女がアナザーワールドをプレイしていたという情報は今初めて知ったのだが、最古参のプレイヤーの一人で、サービス開始当初から前線に立ち続けていた美月も知らないというのは少し意外だった。
「まあ無理はないけどね。あたしは前線に入れるほど強くはなかったし基本的にソロで動いてたから、古参の人達の中でもあたしがプレイしてたことを知ってる人はほぼいないと思うわ。それこそこの人くらいじゃないかしら」
そう言うと天城は聖夜さんを指差し、注目を向けられた聖夜さんは懐かしむかのように視線を虚空に向け、「そういえばそうだったわねぇ」と呟いていた。
「そもそもあたしがこうしてアイドルやってるのだって、向こうでこっそり歌の練習をしてるところをこの人にスカウトされたのが発端だし」
「なんで向こうで歌の練習なんてしてたんだよ……」
「うっさいわね、別にいいでしょ、あたしがどこで歌おうが。
でもあの時はびっくりしたわよ。誰も居ないと思って歌ってたらいきなり物陰から現れて、「アイドルに興味はありませんか」だったもの。
しかもその後で話を聞いてたらいきなりオネエ言葉で話し出すし、ティンときた、とか意味わかんないこと言い出すし、なんだこの不審者はなんて思っちゃったわ」
「誰が不審者よ、失礼しちゃうわね」
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