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「あなた達がこの子の言う恩人だったなんてねぇ……世間って狭いわね、びっくりしちゃったわ」
「そのセリフそっくりそのまま返すわよ。社会人なのは知ってたけど、あのハルのマネージャーだなんてまさか思わないでしょ」
注文したコーヒーを一口啜りくすくすと笑うマリアさんに疲れたように美月が言い返すと、興味深そうにそんなやり取りを眺めていた天城が痺れを切らしたように声を上げた。
「知り合いなのはわかったけど、結局のところ三人はどういう関係なわけ? てかマリアさんってどういうことよ」
「どういう関係ねぇ……説明するのは難しいけど、まあ、強いて言えばアナザーワールドの中での保護者?
あとマリアってのはアタシの向こうでの名前」
そう言って、マリアさんは首から下げた顔写真付きスタッフカードを俺達に寄越してくる。
名刺代わりなのだろうか、そこには「白井芸能プロダクション チーフマネージャー」という役職と、「武藤 聖夜」というホストか何かの源氏名のような名前がアルファベットのルビ付で書き込まれていた。
「武藤だなんてゴツい名前はあんまり好きじゃないんだけれど……マリアこと武藤 聖夜です。こっちでもよろしくね」
そう言うと、マリアさんこと聖夜さんは懐から小さな革の名刺入れを取り出し、そこから二枚名刺を抜き取るとそれぞれ俺と美月の方に差し出してくる。
「えっと……ライトこと風裂 雷翔です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ルナこと、輝宮 美月です。よろしくね」
差し出された名刺をスタッフカードと引き換えに受け取りつつ、これは自己紹介をする流れかと簡単に自己紹介をすると、美月もそれに続く。
念の為端末のメモ帳機能を使って漢字についても教えると、聖夜さんは「あなたも名前で苦労してきたタチね……」と俺に同情の視線を送ってきたが、それは余談だ。
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