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三
月日は流れる。
修治(しゅうじ)は三十代になっていた。娘も生まれた。
五月半(なか)ばの日曜日。
親子三人で動物園に出かけた。独身時代に住んでいたアパートに近い、あの動物園である。帰りがけ、公園の裏道を散歩した。歩道わきのつつじの植え込みは、花の盛りを過ぎて、しなびて来ていた。
「おや」
修治は思わず呟(つぶや)いた。例のあの店は、またしても変わっていた。
『BAR(バー)・ROLLING(ローリング) 50’s』
外壁は白く、扉と窓まわりは鮮やかな青。デザインもモダンになっている。アメリカ風のバーになったのだ。
「どうしたの」
佳世子(かよこ)に訊かれる。だが、誤魔化(ごまか)した。
「もう蚊(か)が出ているんだな。刺されたみたいだ」
「だからさっき虫よけスプレーをしなさいって言ったでしょう」
とげとげしい言い方をする。佳世子は最近、ほんのちょっとしたことでへそを曲げてしまうのだ。このうえ過去の喧嘩沙汰(けんかざた)を思い出されても困る。
大森さんはどうしたかな、とぼんやり思った。
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