一寸先の人生③

2/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
三  月日は流れる。  修治(しゅうじ)は三十代になっていた。娘も生まれた。  五月半(なか)ばの日曜日。  親子三人で動物園に出かけた。独身時代に住んでいたアパートに近い、あの動物園である。帰りがけ、公園の裏道を散歩した。歩道わきのつつじの植え込みは、花の盛りを過ぎて、しなびて来ていた。 「おや」  修治は思わず呟(つぶや)いた。例のあの店は、またしても変わっていた。 『BAR(バー)・ROLLING(ローリング) 50’s』  外壁は白く、扉と窓まわりは鮮やかな青。デザインもモダンになっている。アメリカ風のバーになったのだ。 「どうしたの」  佳世子(かよこ)に訊かれる。だが、誤魔化(ごまか)した。 「もう蚊(か)が出ているんだな。刺されたみたいだ」 「だからさっき虫よけスプレーをしなさいって言ったでしょう」  とげとげしい言い方をする。佳世子は最近、ほんのちょっとしたことでへそを曲げてしまうのだ。このうえ過去の喧嘩沙汰(けんかざた)を思い出されても困る。  大森さんはどうしたかな、とぼんやり思った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!