ある渡世人の子守唄④

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四  坂道の下の小さな花屋で、花束を買った。店内は冷蔵庫のように冷えていて、心地がいい。 「ああ、涼しい」あたしは言っていた。「外に出たくない」 「暑いですものねえ」  花屋のおねえさんが、にっこりと応じる。 「本当に、暑いですね」  会話ともいえない、無意味なやりとりを交わしたのち、外へ出る。花束を小脇に抱え、ふたたび日傘を差しかけて、日が翳(かげ)って来ているのに気付いた。見上げると、薄黒い雲が空を覆(おお)いはじめている。  やれやれ、助かった。そういえば、梅雨明け宣言はまだだったっけ。  あんたのことを思いながら、あたしはふたたび歩き出す。
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