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唯一、真実を知るに近い草案社にも緘口令がしかれた。
佐藤編集長はスクープ誌の任を解かれ、
経理部へと左遷された。もはや彼にも何事も
公表することはできないでいた。
確かに、水落圭介をはじめ、草案社の社員である
有田真由美と小手川浩の
ふたりを『名無しの島』へ取材に行かせた事実を認めてはいるが、
彼が知る事実はそこまでだった。
『名無しの島』で何があったのか、
それを知る生存者は水落圭介と斐伊川紗枝しかいないのだ。
ふたりの知る、その真実は佐藤の想像の及ぶところではなかった。
彼もまた、何も知らないでいたのだ。
それは自分を更迭に近い人事に対する
抗議の根拠にさえなりえなかった。
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