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「可愛い声も出せるんだな。あの時は綺麗だった、君の胸」
「嘘つき。見てないって言ってたのに」
暖房と、二人の熱気で窓が白い。雨にも閉じ込められて、今私達はエレベーターの中にいる。誰の助けもいらない。
「噂を事実にすれば誰も文句はないよな」
「……車の中でするんですか?」
「まさか。場所は移す。綾野さん、俺の恋人になってくれないか?」
「なってもいいですよ。だから結衣って呼んで下さい」
「俺も、課長はもう止めてくれ。南朋(なお)だ。下の名は」
「なお……女みたい。しかも微妙ですね」
「元カレに似てるからか」
クスクスと笑うと、南朋は「結衣」と優しく囁いた。私も「南朋」と囁き返す。
真夏のエレベーターは、真冬へ到着しようとしてる。
だけど私の心は、ちょうど良い温かさに包まれていた。
☆END☆
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