第1章

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その奇妙な店は……いや、店というより奇妙な老婆は……いや、これも正確ではない。 この時間に、この店に、老婆が居ることが奇妙なのだ。 知り合いの工場でバイトを頼まれたその帰り。時間は夜中の12時を回っていて、もう1時に近い。 田舎の峠にポツンとあるその店は、昔ながらの駄菓子屋といった感じの店で、いつもバイトの帰りに自販機で煙草を買いに立ち寄る店だ。 そのため、昼間やっているのは見たことがない。 大きな間口の入り口に、格子にガラスをはめ込んだ、昔はよく見かけたタイプの引戸が四枚並んでいて、その扉を老婆が揺すっているのだ。 この店に、先客が居たのははじめてのことだ。 何しろこんな時間だ、少し気味が悪いと思ったが、俺は車を道に寄せた。車を止める場所に困らないのが田舎の良いところで、その結果道路の半分を塞いだとしても、ほとんど車通りを気にする事もない。 腰の曲がった老婆はヘッドライトに照らし出され、眩しそうにこちらを見たが、またすぐに前を向いた。そして入り口の扉をガタガタと揺らしている。 車から降りると、すぐに虫の大合唱が耳に飛び込んで来た。俺は老婆の後ろを通って自販機へと向かう。 飲み物の販売機が二台、煙草の販売機が一台、店の建物の向かって右側に並んでいる。 老婆は扉を揺らしながら、おかしいな、変だなと呟きながら首をかしげている。 俺は横目で老婆を見ながら、煙草を買った。 「何でだろうなあ?おかしいなあ?」 俺はもうひとつ煙草を買う振りをして、老婆を見守った。 「うーん、何で開かないんだろう?」 何か困っているのだろうか?俺は思い切って声を掛けることにした。 「お婆ちゃん、どうしたあ?」
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